研究概要 |
大動脈壁の力学的特性とその弾性線維の生化学的特性を同定することを目的に,家兎の大動脈を分析した.すなわち,個別ケージにおいてあまり運動ができない状態で飼育した家兎および屋外において放し飼いにした家兎の大動脈を,その起始部から横隔膜部位までを摘出した. 大動脈の力学的特性の測定は,下降大動脈の近位端2mmを切除して作成したリング状試料を,インストロン型引っ張り試験機を用いて毎秒1mmの引っ張りを加えた.その結果,極限伸び比,破断時の応力,増分弾性係数に関しては両群間で統計学的な差が得られなかった. また,弾性線維の生化学的特性の測定には,まず大動脈をアルカリと煮た沈査をアルカリ不溶性のエラスチンとして単離した.次に単離したエラスチンを真空下で加水分解することにより,アミノ酸に分解した.そこに含まれる極性アミノ酸と架橋アミノ酸の割合を両群間で比較したところ,差は得られなかった.さらに,その加水分解液中に含まれるカルシウムの量にも両群間で差はなかった. 今回行ったものと同様の実験を,ラットを対象に測定した報告によると,運動群とそうでない群との間には統計学的な有意差が得られた.このことは動物のストレインや行った運動の種類や量などによって,その影響に差があることを示している. 今後は,ラットを用いて,エラスチンを単離・培養し,血管平滑筋細胞の移動を観察する.それにより,動脈硬化症における血管平滑筋の内皮への遊走が,エラスチンのバリアーとしての機能低下によるものなのか,平滑筋細胞の移動能の維持によるものなのかが明らかになることが期待できる.
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