本研究の目的はスポーツ選手に対するカウンセリング事例を下敷きに、スポーツにおける人格変容理論の構築を目指すこと、そして選手のメンタルヘルス向上に寄与するスポーツ実施上の具体的な方策を見いだすことであった。12年度の研究実績を踏まえ13年度はまず、メンタルヘルスの維持増進の観点からスポーツ選手が抱える課題を明らかにするため、質問紙調査(N=363)を実施し検討した。その結果、大学運動選手は、ストレス対処過程において因子的に妥当な問題焦点型と情動焦点型の2つの対処方略を用いること、そしてそれらの対処方略の選定には信念体系が関与することが実証された。特に性差、競技レベルの2つの要因において、メンタルヘルスに対する不合理的信念の影響が認められた。次に平成12年度に構築された「スポーツにおける人格変容理論」を基に、彼らのメンタルヘルス維持増進のための具体的なアプローチを示すため、ライフラインの作成を組み込んだ面接マニュアルを用いてインタビュー調査を実施した。その結果、大学運動選手の場合、自我同一性にかかわる内的な危機が現実場面では競技継続や進路選択の問題としてクローズアップされることが分かった。そのストレス事象を契機に、対処経験の失敗により食行動異常や運動部不適応など、日常生活にも波及する問題行動へと重篤化させてしまう事例が認められたが、それらの事例に対しても不合理的信念の論駁ならびに認知の再構成を支援することで、問題解決が可能になることが示唆された。なお、13年度における上記の研究成果は平成13年度スポーツ心理学会に発表された。また12年度-13年度にまたがる研究成果は大阪体育大学紀要にて公表される予定である。
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