本年度の研究は、(1)前年度より継続している近世の焼畑に関する諸研究のレヴュー、(2)奈良県吉野郡における史料調査、(3)その他に分けられる。 (1)に関しては、日本各地の郷土史や地方史における諸研究、とりわけ検地における焼畑に触れた報告が予想以上にあることが分かってきた。当初の目論見ではそれらの収集・整理は昨年度に目途がついているはずであったが、結果的には今年度の後半において、ようやくその全体像が見えてきたのが実情である。その結果、農業経済史における近世の焼畑に関する学説は、大きく書き換えられねばならないと考えるに至った。その成果については、一部を8月にカナダのケベックで開催された国際歴史地理学会議で報告したが、文字による公表は来年度にもちこされる。なお文献調査にあたっては、国立国会図書館の文献複写サービスならびに各県立図書館における調査を行い、旅費および文献複写料を科学研究費で充当した。 (2)に関しては、9月に奈良県吉野郡下北山村歴史資料館において、下北山村および資料館のご厚意のもとで所蔵文書を調査し、焼畑および検地に関連する史料を中心に写真撮影を行い、本研究にとって重要史料を確認することができた。現在、それらの史料の検討中である。ただし、なお検討しきれなかった史料が残されているため、機会を見つけて私費による調査を継続していく予定である。写真撮影にあたっては、科学研究費によって写真撮影器財および電子画像の管理・検討を行うためのパソコンを購入したほか、旅費を充当した。 (3)その他、本研究の視角に関連した小文を、雑誌「地理」に寄稿した。ここには、必ずしも本研究による最新の成果を盛り込むことはできなかったが、本研究の視点の重要性を訴えることができた。
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