本研究は、ヨーロッパの代表的都市圏のひとつ、バルセロナ大都市圏を対象として、20世紀の産業化の過程で発生した活発な地方外からの人口流入が社会文化集団の形成に与えた影響を、言語・文化の異なる地方間の移動と農村から都市への移動という、2つの側面から分析することを目的としている。具体的には、(a)対象地域における人口再生産のメカニズムを婚姻・出生の分析を通じて明らかにすること、(b)言語・文化および都市性にかかわる生活戦略上の諸資源が都市民による社会経済的地位獲得に及ぼす効果を分析することによって、複合的な社会文化集団の形成過程を明らかにすること、(c)そうした社会文化集団の形成が居住地や生活空間の編成に与える影響を明らかにすること、の3つを目標とする。 上記(a)については、バルセロナ市人口の期間出生力を両親の出身地別に推計することにより、出身地集団間の出生力格差とともに出身地集団の出生力への影響を明らかにした。さらに、バルセロナ大都市圏を構成する基礎行政体を単位地域として、コーホート出生力の規定要因を重回帰分析を用いて分析した。これらの分析の結果、高出生力地域からの人口流入は、バルセロナ大都市圏人口の出生力に強い影響を及ぼしたが、人口流入そのものが急減し、未婚率の上昇や女子の社会進出に代表される社会変化が進むなかで、出身地集団による出産行動の差異が希薄化してきていること、またこのような変化にとって、出身地集団の内婚傾向の弱まりと同一出身地集団内出生の減少が重要な役割を果たしたことが明らかとなった。 上記(b)(c)については、統計的手法による定量分析の基礎となる個人データおよび調査区別集計データの大部分をすでに現地関係機関から入手し、現在、データの加工・分析を進めるとともに、来年度実施する予定の現地調査の準備をおこなっている段階である。
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