本研究は、子どもの社会性の発達、なかでも幼児の「争い場面」に注目し、他者関係の構築における初期の様相を解明し、関わりの中でぶつかりあいながら、育つ力がどのように培われていくのかを長期のフィールド調査により明らかにすることを目的としている。平成12年度については以下を実施した。 (1)調査によるデータ収集:幼稚園3歳児の「争い場面」における葛藤維持方略(conflict management strategy)の調査を月一度の割合で実施し、社会性の発達過程についてのデータを収集した。 (2)保育カンファレンスの実施:保育者側からの要望もあり、来年度に予定していた保育カンファレンスを今年度より2ヵ月に一度の割合で実施した。本研究では、保育現場との関わりを深めながら調査を行うこと、観察されたビデオデータを素材に、保育者とともに発達について考えていく場を提供することが計画されており、調査と平行して、発達援助について考える機会をもつことができ、子どもの日常の状況と観察結果を検討しあうことができた。 (3)分析結果:分析中のデータから、3歳児の争いにおいて、あそび集団内であれば応報戦略(Tit-for-Tat)とよばれる、互いの言い分を伝えあうことが可能であること、ただし、あそび集団外ではそれぞれのあそびの文脈を読み取ることが難しく、すれ違いのままにどちらかの遊びが終了しまい、応報戦略が成立しにくいことが明らかになった。 (4)発表:本年度は、社会性の発達について国際心理学会で発表。また、子どもの争いの進化心理学的分析について論文を投稿。さらに、発達心理学会において「応報戦略」に焦点をあてた分析結果を発表した。 来年度は4歳児を中心にビデオ観察を継続し、争いを回避したり、互いの遊びを破綻しないように維持する方略がどのように発達とともに変化していくのかについて調査を進める予定である。
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