工場、ビル冷暖房および自動車走行などの増加によってわが国の大気環境には多くの大気汚染物質が排出されている。本研究では、被服の変退色および損傷劣化の原因として重要な役割を果たしていると見込まれる大気汚染物質の動態および影響を検討した。 試料には、JIS添付白布の8種および合成繊維を分散染料で染色した染色布4種の2セットを用いた。これらを、NO_2を流通させたチャンバー内で曝露した。 白布へのNO_2の由来付着量の相違を検討した結果、付着量の多寡は、ほぼ水分率の順位と対応することが明らかとなった。すなわち、表面構造よりもバルクの性質の影響が著しいことが伺われた。さらに基質によって、NO_2^-とNO_3^-の付着量の比率が異なることが認められた。NO_2^-が付着しやすいのは、ウール(NO_2^-比率:95%)とナイロン(NO_2^-比率:77%)であった。基質にアミノ基を含む繊維にはNO_2^-の割合が高くなることが認められたと言える。 さらに、NO_2による染色布の変退色作用が確認された。その場合にも基質の影響が認められ、C.I.Blue56では、アクリル、ナイロン、ポリエステル、トリアセテートの順に堅ろう性が高いことが判明した。大気環境中のNO_2濃度レベルでも変退色が顕著に生じうることが実験的に確認された。 一方、大気汚染の発生源は、屋外のみならず暖房および調理器具など室内にも存在することを本研究では確認した。被服の保全には、換気および空調設備の設計を含めた空気質の管理が不可欠と結論された。
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