さんまの塩干しから検出された2-chloro-4-methylthiobutanoic acid(CMBA)は、サルモネラ菌TA100、TA1535株を用いたAmes test(-S9)において変異原性を示す。今回我々は、CMBAの変異原性が糖類によって増強されることを見出した。試験は次の通り行った。サルモネラ菌TA100株とCMBAを、糖添加または無添加のリン酸ナトリウム緩衝液中で37℃、4時間インキュベートした。つぎに反応混合液を遠心分離して菌を集め、緩衝液に懸濁して洗浄し、再び遠心分離した。この洗浄操作を3回繰り返してCMBAを完全に除去した後、菌懸濁液を寒天プレート上にまき、3日間培養後ヒスチジン非要求性復帰突然変異体のコロニー数をカウントした。その結果、D-mannose>D-glucose>D-fructose>D-ribose>D-galactoseの順でCMBAの変異原性を増強することが明らかとなった。この他、試験した二糖類の内maltoseはわずかに増強作用を示したが、三糖類は効果を示さなかった。また、サルモネラ菌が炭素源として利用することができない単糖類のL-glucoseは効果を示さなかった。 この糖類の変異原性増強作用のメカニズムを調べるため、[methyl-^<14>C]CMBAを用いてサルモネラ菌体内へのCMBAの取り込みに対する糖類の影響を調べた。試験は、変異原性試験と同様の条件で行った。すなわち、サルモネラ菌と[methyl-^<14>C]CMBAを糖添加または無添加リン酸緩衝液中で4時間反応させた後、菌を洗浄し、菌に移行した[methyl-^<14>C]CMBA由来の放射活性を液体シンチレーションカウンターで測定した。その結果、CMBAの変異原性試験で増強作用を有した糖類が[methyl-^<14>C]CMBAの取り込みを促進していることがわかった。また、単糖類における変異原性増強作用とCMBA取り込み促進作用の間に高い相関性があることも明らかとなった。しかし、二糖類のmaltoseはCMBAの菌体内への取り込みを促進するが、変異原活性を高める作用をほとんどもたなかった。この結果から、単糖類はCMBAの菌体内への取り込みを促進するだけでなく、菌体内でさらに変異原の活性化に関与するものと考えられた。 当初CMBAの変異原性の作用機序を解明するためDNA付加体の検出を試みたが、検出には至らなかった。今後、糖の作用も含めて考える必要がある。
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