【目的】骨密度規定因子は大きく遺伝因子と環境因子とに分けることができる。これまで我々はVDR遺伝子のプロモーター上に腸管特異的転写因子であるCdx-2と結合するcis-element;hVD-SIF1が存在し、腸管におけるVDRの特異的な発現を調節していることを明らかにした。更にこのhVD-SIF1領域には遺伝子多型が存在し、Cdx-2とhVD-SIF1との結合能に違いがあることから、VDRを介した腸管からのCa吸収に影響を及ぼす可能性が示唆された。そこで本研究ではVDR遺伝子のhVD-SIF1における多型を用いて骨密度や食事等との関連性を比較し、遺伝素因マーカーとしての有用性を検討した。 【対象と方法】骨代謝疾患の認められない健常人女性347名(20-86歳)を対象とした。VDR遺伝子多型は未梢血白血球よりDNAを抽出し、PCR法により本領域を増幅後、ダイレクトシークエンス法を用いて塩基配列を決定し、hVD-SIF1領域がCACAAから始まるものをWT型、CACAgへ変異したものをMT型、そしてWT型とMT型をヘテロに有するヘテロ型に分類した。腰椎(L2-L4)骨密度はDXA(QDR-2000)により測定した。骨代謝マーカー(ALPIII活性、TR-AP活性)を測定し、同時に体組成の測定(タニタTBF-102)を行なった。食生活の状況、ダイエット経験の有無、牛乳摂取習慣等のライフスタイルは質問紙による留め置き調査とした。 【結果】(1)対象のVDR遺伝子型の頻度はWT型17.6%、MT型30.5%、ヘテロ型51.9%であった。また月経状況により未閉経群(153名)、月経不規則群(36名)、閉経後2-9年群(76名)、閉経後10年以上群(83名)の4群に分類した。(2)月経不規則群、閉経後10年以上群の腰椎骨密度及びZ値はWT型>へテロ型>MT型の順で高かったが、未閉経群と閉経後2-9年群では差がなかった。(3)腰椎骨密度との関連は、未閉経群のWT型とへテロ型ではダイエットと負の、不規則群のMT型では牛乳摂取(小・中学校)と正の、閉経後2-9年群のMT型ではダイエットと負の、閉経後10年以上群のWT型とへテロ型では牛乳摂取(小・中学校)と正の相関が見られた。よって、遺伝素因のリスクの高いMT型では過去の牛乳摂取頻度やダイエット経験との関連が高いことから早期にスクリーニングを実施し、適切な栄養指導を行うことは骨粗鬆症の予防に有効であると考えられる。
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