本研究の目的は、リン脂質酸化物(LPO)の細胞老化への影響をラット胎児脳細胞を用いて検討することである。ここでは老化は、細胞骨格機能の低下に伴い起こると考えている。本研究者は前年度までに、調製したLPOの同定を行い、細胞骨格タンパク質への影響を検討した。 I.培養細胞の選択 培養細胞としては、PC12細胞を用いた。PC12細胞は、神経成長因子(NGF)の存在で、微小管より形成される突起を伸長させる。LPOによる微小管への影響が直接観察できる。 II.培養細胞(PC12)へのLPOの及ぼす影響 LPOは、PC12細胞に対して濃度依存的に細胞毒性を示すことが改良MTT法より、また濃度依存的に膜損傷を起こすことがLDH活性測定結果より、示された。 III.LPOの細胞膜に及ぼす影響 リン脂質画分の分析では、ヒドロペルオキシドの存在が確認された。また、細胞膜由来脂質に過酸化が進んでいることが、HPLC分析およびマススペクトル分析により確認された。 IV.細胞の形態に及ぼすLPOの影響 位相差顕微鏡法より、LPOは細胞間ネットワークを崩壊させ、新たな神経突起の形成も阻害することが認められた。また、チューブリン抗体染色蛍光顕微鏡観察では、LPOによって形態変化が起っていたことが認められた。 以上のことにより、脳内においてLPOは、微小管に作用し、神経突起形成を阻害し、次に細胞骨格を劣化させ細胞体が障害され、ニューロン全体を損傷させることが示唆された。
|