東京国立文化財研究所で近年開発された可搬型の蛍光X線分析装置を用いて、様々な文化財資料の材質調査を行い、材料や技法に関する新たな知見を数多く得ることができた。今年度は本研究課題の初年度として、絵画や障壁画といった平面的な資料の顔料分析を積極的に行うとともに、木彫像の表面彩色の分析を行うなど、立体的で複雑な形状の資料についても分析を試みた。以下に、今年度測定を行った資料と得られた結果の概要を示す。 (1)国宝「源氏物語絵巻」の顔料分析 徳川美術館および五島美術館に所蔵される国宝「源氏物語絵巻」について、顔料同定を目的に分析を行った。両美術館に専用の測定架台を持ち込み、これまでに(従来からの測定と併せて)600ポイント以上の測定を実施した。Hgを主成分とした白色顔料を見出すなど、美術史研究に新たな展開をもたらす数多くの知見を得ることができた。来年度も調査を継続する予定である。 (2)名古屋城本丸御殿天井画・障壁画の顔料分析 名古屋城本丸御殿の天井画および障壁画の復元模写の過程において、用いられている彩色材料や顔料の特定を目的に調査を実施した。名古屋城小天守閣において測定を実施し、剥落・変色などで材料が不明だった顔料の特定を行うことができた。 (3)四日市市立博物館での銅造仏の組成調査および木彫像の彩色材料調査 三重県内で近年出土した銅造仏および木彫彩色像について、四日市市立博物館で調査を実施した。 (4)神奈川県・称名寺本尊の彩色材料調査 称名寺において本尊弥勒菩薩立像表面の彩色材料調査を行った。台座から補彩と考えられる顔料を検出した。 (5)京都・大将軍八神社の神像彩色材料調査 大将軍八神社において、多数の神像を対象に彩色材料を調査した。特徴のある緑色顔料が存在していることを見出した。
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