平成12年度に引き続き、東京文化財研究所が中心になって近年開発された可搬型の蛍光X線分析装置を用いて、様々な文化財資料の材質調査を行い、材料や技法に関する数多くの知見を得ることができた。平成13年度は本研究課題の第2年度(最終年度)として、立体的で複雑な形状の資料や、壁画など大型の試料についても積極的に調査を行い、これまで知られていなかった新たな知見を得ることができた。以下に、平成13年度に測定を行った資料と得られた結果の概要を示す。 (1)国宝「源氏物語絵巻」の顔料分析 平成12年度に引き続き、徳川美術館および五島美術館に所蔵される国宝「源氏物語絵巻」について、顔料同定を目的に分析を行った。両美術館に専用の測定架台を持ち込み、従来からの測定と併せて700ポイント以上の測定を実施するに至った。今年度の調査により、これまで知られていない緑色顔料が用いられている部分があることを新たに発見した。 (2)国宝「普賢菩薩騎象像」の表面彩色分析 東京・大倉集古館に所蔵される国宝「普賢菩薩騎象像」について、表面彩色材料の評価を目的に分析を行った。蓮弁部分に残存している明緑色の部分から、従来考えられていなかった亜鉛を含む緑色物質を検出した。 (3)輸出漆器の表面装飾分析 18世紀末から19世紀初頭にかけて日本から欧州へ輸出され、現在英国のアシュモリアン美術館に所蔵されている「ナイフボックス」表面に施されている蒔絵や装飾品の材質調査を目的に分析を行った。表面の茶色や灰色に変色した蒔絵部分の材料が真鍮粉であることを見出した。 (4)中国壁画の顔料分析 可搬型の蛍光X線分析装置を中国に輸送し、北京の智化寺に保管されている明代(15世紀)製作の壁画(470W×300Hcm、床面から150cm)の顔料分析を行った。海外で大型の文化財試料の測定を実施できたことは大きな意義がある。
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