本研究は、カリフォルニア大学バークレイ校で開発されたConvinceMEという、命題集合の論理的整合度を数値的に計算するコンピュータシステムを用いて、利用者の推論能力の向上に役立てることを目的としたものである。ユーザーは、複数の解釈が可能な事象について、それぞれの解釈にかかわる仮説と証拠にあたる命題、それら命題間の関係を与える。同時に、ユーザーは、おのおのの命題の妥当性を各自の判断に基づいて数値的に与える。ConvinceMEは、ThagardのTEC(theory of explanatory coherence)理論に基づいて、命題や関係の内容や意味には踏み込まずに、命題と関係が成すトポロジーのみから、おのおのの命題の妥当性を数値的に計算する。ユーザーは、自分が与えた妥当性の値とConvinceMEが求めた妥当性の値を比較して、乖離があった場合にその理由を考察し、自身の命題の構造について検討する。これまでの研究では、ユーザの概念が、混沌とした状態から整理された状態へと変化することが示されてきた。本研究では問題解決型学習の支援に用いるケースについてその効果を調べた。また、本研究では、ConvinceMEを単独で利用した場合と、2人の人間がConvinceMEは使わずに互いに相談しながら問題解決を進める共同学習の条件と比較した。課題は与えたゴミを可燃ゴミ、資源ゴミなどに分別するものであり、個々のゴミを何ゴミに分類するか、より整合度の高い理由づけをするよう求めた。その結果、ConvinceMEを単独で利用した学習者は、利用せずに利用した者と比べて、ゴミを適切に分類できるようになったことが示された。また、2人が相談しながら学習した場合もゴミを適切に分類できるようになったが、転移課題ではConvinceMEを用いて単独で学習した場合に劣ることが示された。
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