前年度までに、化学実験を対象にITS/Microworld統合型システムの一部を実装した。このシステムは実験中にいきづまった学習者から、化学の知識に関する質問、実験方法に関する質問、自己の操作の再現要求などを受けつける。学習者は仮想実験室に対するマウスオペレーションならびに自然言語を使い分けつつこれらを入力する。本年度はこれを受けて以下の検討を行った。 (1)言語・図形を併用した情報提示戦略 昨年までのシステムは、機構的には記号メディア・図形メディアを併用した情報提示が可能であったが、これらを様々な学習状況において効果的に使い分ける教授戦略については整備されていなかった。そこで、化学物質の構造を学習させる場面を想定し、システムからの情報提示を、記号メディア、動画を含む図形メディア、及びその組み合わせのいずれを用いて行うかを戦略としてまとめ、システムに実装した。 (2)対話文脈を考慮したコミュニケーション 上記と同様、化学物質の構造を学習させる場面を想定し、物質の構造からその特性を導かせるタイプの演習問題において、誤った答えを導いた学生には誤りに気づきやすいような図形提示を行い、行き詰った学生に対しては説明文と動画を提示するなど、問題解決の文脈の中で適切なレベルの学習環境を設定する機構を開発した。 (3)実験システムの評価: 以上より得られた知見に基づいてシステムを設計、実装し、評価実験を行った。具体的には、高等学校の化学を担当している複数の教員に、本研究で開発したシステムを利用させ、教育手法の妥当性やパフォーマンスの実用性などを質問紙により調査した。いくつかの改善すべき点は指摘されたが、概ね良好な評価を得た。
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