本研究の目的は戦前期に文部省によって実施された「師範学校中学校高等女学校教員検定試験」(通称「文検」)の家事科(以下、「文検家事」と略記)について、受験者および合格者の実態を明らかにすることである。筆者は、すでに、女性の「文検家事」合格者について文献調査および聞き取り調査を行い、その実態を一定程度解明したが、男性の受験者については、全くといっていいほど知られていない。そこで、本研究では「文検家事」の合格者、受験者のうち男性合格者である谷忠一を研究対象とし、その実態を明らかにすることを目指した。 具体的には、谷忠一の生家に残されていた著作および蔵書117冊、論考116編、日記32冊、手紙類を資料とし、加えて、1999年6月と2000年9月に実施した谷の家族からの聞き取り調査の結果を用いて、(1)男性である谷が女子用の教科目であった家事科の教員免許状をなぜ取得しようとしたのか、(2)「文検家事」に合格するためにどのような受験勉強を行ったのか、(3)合格後、どのように家事科教育に係わったのか、について分析した。 この結果の一部については、教育史学会第44回大会(2000年10月1日)において発表したが、現在、さらに検討を加え、まとめる予定である。
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