研究概要 |
本研究は,子どもの社会認識の発達に即した授業実践のための根拠となる認識の発達的変容に関する実証的データの収集を目的として行った。これまでの先行研究の成果が授業改善に十分には生かされていないとう問題意識から,まず先行研究をその目的と方法によって整理した。目的を観点として分類するとレディネス研究とプロセス研究に大別でき,社会科教育としての発達研究では認識プロセスの解明が急務である。また研究方法は,横断・縦断的研究法と実験的教育法に分けられ,横断・縦断的研究法から得られた研究仮説を実験的教育法によって実証する研究が求められる。次に,社会認識構造の発達的変容に焦点をあてながら,小学生から大学生までを対象とする調査とその分析を行った。分析にあたっては,回答の順序性の背後にある動態的な思考プロセスの存在を仮定し,認識のネットワーク構造の変容を中心に検討した。結果を要約すれば次のとおりである。1.子どもの社会認識の発達は,量的増加と共にいくつかの質的に異なった発達段階に区切られ,小学校4,5年生頃を過渡期として,具体的思考の段階から抽象的思考の段階へと質的に転換する。2.児童期から青年期にかけて収束的思考から拡散的思考を経て,再び収束的思考が優位になる時期へと移行し,4,5年生頃は拡散的思考から収束的思考への転換期として位置づけられる。3.子どもの社会認識構造は並列型,関連型,組み込み型,変革・創造型,総合(統合)型の5つに類型化される。4.子どもの知識成長の過程として,社会的事物・事象に関する知識を量的に増加させる段階から知識相互のネットワーク化を図る段階,あるまとまりとして知識を統合する段階へと移行し,さらにこれらの段階の螺旋的な繰り返しが想定される。5.認識の質的な転換を促進する指導,経験的・自然的な発達では十分に到達できない部分への働きかけが求められる。
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