研究概要 |
研究者は歌を集合的記憶と捉え、唱和を身体的共同想起と捉えて、そのような共同想起の構造と共同想起を引き起こす装置を明らかにすることを目的としている(「歌」には、いわゆる既存の歌だけでなく、かけ声や挨拶、はやしことばなど、固定的なパターンが集合的記憶として集団に内在するものも含む)。本年度は、3歳児クラスを対象とし、唱和が生じた場面のVTR記録と分析をもとに、共同想起が何を契機として起こるか、共同性を支えるものは何かについて考察した。 1.歌の想起の特質;想起は一般には状況依存的である。例えば、遊びの場合、前日の遊びの場所、モノによって作り出される状況に身体を置くことによって、前日の遊びが想起されると考えられる。これに対して歌の想起は(状況依存的なものもあるが)、本質的には、場所やモノといった状況性を超えると思われる。場所やモノによる状況を契機として歌が想起されることも多いが、場所やモノとは無関係に想起されることも多い。これは、歌が脱文脈的かつ状況想起的に想起されるという想起構造を持つことによって、そこに場所やモノを超えた状況性を創出するからだと考えられる。 2.共同想起の装置;したがって、唱和という共同想起の契機的装置は、ひとつには場所やモノなどの状況だが、もうひとつは,歌そのものによって創出される状況性である。つまり、唱和という共同想起を支える基底的装置は、身体の共鳴的同調である。 3.次年度の課題;唱和が頻繁に観察された場面のひとつとして、絵本や紙芝居の読み聞かせの時とその直後というのは、注目すべきと考える。坂部恵は「はなし」の時制と「かたり」の時制を区別し、「うた」は「かたり」の時制と同様に考えられると言う。この論に基づけば、読み聞かせという「かたり」の時制に唱和が起こるのは必然的である。この意味で、教材によって創出される場と歌との関係を探るのが課題である。
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