本研究の目的は、談話におけるあいづちのパラ言語的側面を明らかにし、日本語学習者のための発音指導シラバスにフィードバックすることである。本年度は、基礎データとなる日本語話者の談話を分析し、研究成果を発表した。 まず、調査協力者(大学生4人)がA・Bペアになり、ビデオの前・後半を別々の部屋で観た後、内容を相手に伝えた。この際、話し手と聞き手の言語行動をデジタルビデオカメラに収録し、DAT録音機で音声分析用データを録音した。その後、データの文字化と談話分析を行い、音声解析ソフトを用いて持続時間を測定した。また、すべての発話(合計474、A:248;B:226)について、発話機能のラベリングを行った。情報提供以外の「実質的な発話」には、会話の導入部で情報交換を始める際の共同行為要求、会話半ばの話者交替では、情報要求や意思表示が見られた。また、「あいづち的な発話」には、継続、同意、承認、確認、興味、終了などの注目表示が見られた。 調査の結果、発話持続時間中のあいづちの使用頻度は、平均3秒に1回であることが分かった。会話全体の発話時間に対するポーズの割合は、A、Bそれぞれ8.6%と6.6%であった。また、ポーズは音響音声学的には無音区間であるが、「沈黙」のようにそれ自体が意味を持つ場合もある。今回、話し手と聞き手が談話を作り上げていく過程において現れるポーズに注目した結果、発話が重ならず、かつ前後に話者交替が見られない例が占める割合はAが63.3%、Bが57.7%であった。発話後のポーズは聞き手のあいづちと重なる傾向が強いが、重なりのないポーズの平均6割が、話し手が言いよどんだり、考えをまとめたりする間のポーズであることが分かった。このことから、話し手が情報を整理しつつ聞き手に伝え、また聞き手はこの間話し手が発話権を行使していることを理解し、あいづちを打たず次の発話を待つことが示唆された。
|