研究概要 |
水産資源の漁獲死亡率および自然死亡率の推定にはいくつかの方法がある.本研究では標識放流から得られた再捕データを観測値とした場合の統計モデルについて考察した.一般に,水産資源は空間的に集中分布することが知られている.また,漁獲を行なう際の操業条件や魚の生残に関する環境条件も通常一定とは考えられない.ここでは,この様な不均一性および変動をランダムネスとして捉える方法をとり,超過変動を考慮した統計モデルの構築を行なった.この際,漁獲死亡および自然死亡の両尾数の経時的な過程を考慮し,条件付モデルを対象とした.モデル内の確率的構造に関しては,Dirichlet-多項分布などのように分布型を特定する場合と,平均一分散関係のみを仮定する擬似尤度的な方法の二通りを考察の対象とした.自然死亡による標識魚の減少過程については,自然死亡尾数を欠測値とする方法と,パラメトリックに扱う方法が考えられた.自然死亡尾数を欠測値として含む場合には,不完全データの取り扱いが必要となる.このようなモデルに対する擬似尤度法に関しては,Morton and Heyde(1996)の研究があるが,経時的なモデルには対応していない.その為,推定方法およびアルゴリズムの拡張を試みた. またこの考察と並行して,分布型のずれに関する擬似尤度法の頑健性について,いくつかの分散関数の仮定の下で,シミュレーションにより考察した.この結果,真の分布を仮定した場合の最尤法に比べ,擬似尤度法では推定効率は当然落ちるが,その減少程度はそれほど大きくはないと判断された.
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