研究概要 |
本研究は、言語進化や言語発達などの動的な言語現象を解明するための基本的な力学系モデルを構築し、その基盤となる「動的言語観」を発展させることを目指すものである。「動的言語観」は、言語を用いる主体が意味を創造する動的な過程として言語を捉え、会話を通して話者は互いに影響しあいその内部構造を変化させるとする考え方である。 今年度は、文法や語用法といったある言語を話す共同体において共有されると思われる言語のルールを一般化し、社会における規範と考え,それがコミュニケーションの結果いかに形成・変化するかを研究した。 本研究では、独自の認識枠組みを持つ複数の話者がコミュニケーションをとりつつ行為を行う、マルチエージェントモデルを用いた。本モデルは、話者間のコミュニケーション、得られた情報を基にした行為、行為のフィードバックというプロセスが繰り返されて時間発展する力学系モデルである。ここで重要となるのは、それぞれの話者は独自の認識枠組みを持つため、情報は話者間で同じように解釈されるとは限らないこと、および、この認識枠組みは固定的なものではなく、コミュニケーションと行為のプロセスを通して変化していくことである。 本モデルの計算機実験では、話者が情報提供者を共有するグループをつくり、さらに、そのグループの中で認識枠組みも徐々に共通のものになっていくという、クラスタリング現象が見られた。また、クラスタの境界での相互作用は全体としてのコミュニケーションの効率を下げること、および、コミュニケーションの強さに対しクラスターの大きさはべき的に減衰することが分かった。すなわち、非常に弱いコミュニケーションでも、認識枠組みを共有し、行動がある種の整合性を持ったグループ(規範を共有する集団)が生じえることが示された。
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