本年度は、環境影響評価の実施に至った北海道新幹線および長崎新幹線の沿線地域における聞き取り調査および九州新幹線鹿児島ルート沿線における聞き取り調査と現地踏査を行い、新幹線建設に関する知見を深めるとともに、千歳川放水路に関して、文献を収集するとともに、北海道新聞の縮刷版から関連記事を複写し、研究の基礎資料となる文献リストおよび原稿用紙換算で約160枚分の詳細年表を作成した。また、関係団体に対する予備的聞き取りを行い、千歳川放水路問題に関わる資料の提供を受け、来年度の本調査へ向けての基盤を固めた。 今年度の成果から、巨大公共事業の政治社会学の理論化に向けて、諸々の有益な知見を得ることができ、また、いくつかの仮説を構築することができた。まず、巨大公共事業の進展に関しては事業によって多様性があり、受益性と開発地域の広さが関係しているように思われる。すなわち、受益性が高いと思われる事業、たとえば高速交通網整備やニュータウン開発では関係者の同意をとりやすく、比較的スムースに事業が進展するが、受益性が少ない事業、たとえば発電所、核施設、治水などでは関係者の同意を得るのが困難なため、事業の進展に歯止めがかかる。また、開発面積の広さについては、高速交通網や治水など、広範な地域に及ぶ事業においては関係自治体における熱意の差が見られるため、事業の進展に対して制約条件を形成しやすい環境にある一方で、消極的な自治体を取り込む力学が働くため、事業の撤回は困難である。反対に、発電所やニュータウン開発など、開発地域が限られる場合には、当該地域が反対の意を鮮明にした場合には、事業は非常に困難になるが、当該地域が賛成すると事業が素早く進展する傾向がみられる。しかし、原発を含む核施設の場合は例外である。
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