本年度に実施した研究内容は、以下の通りである。 1.江戸における都市観光の発達 (1)江戸の名所の変遷 新興都市である江戸が発達していく中で、江戸市中及び近郊の名所はどのように変遷したのかについて、江戸の初期・中期・後期を代表する名所本から名所を抽出、種別や記述内容から期別の特徴を分析した。結果、初期は寺社を中心とした名所が多かったのが後期になると水辺や自然に関する名所が増えていること、分布については後期になると墨引内(=市内)よりも墨引外(=近郊)により多くなること、また各名所の記述内容についても後期になるほど記述される項目数は多くなっており、魅力が多様化していることが読みとれた。 (2)江戸期を通じた伝統的名所の空間的特徴 江戸期を通じた伝統的名所について、その立地特性を把握した上で、立地特性別に空間的特徴を絵図等より明らかにした江戸期の伝統的名所は、亀戸、隅田、王子、高田、品川の墨引直外の五大エリアに集約しており、核となる寺社の周辺(半径1km圏内)に新興名所が成立するなどして域としての魅力を増していったこと、また核となる寺社は起伏に富み、多様な魅力を備えた空間構成となっていることが読みとれた。 2.明治以降の名所の変遷 1で把握した江戸期の名所が明治以降どのような変遷をたどったかを、明治期の文献より読みとりを行った。現段階では、当時の外国人による名所に関する記述、さらに外国人向けに国内外で出版されたガイドブックでの記述の収集および基礎的分析が終了した段階である。今後、日本人向けに出版された文献についても同様の作業を行うとともに、江戸から近代への時代の変遷とともに都市の魅力がどのように変化していったか、あるいは変化しなかったかについて分析を行っていく予定である。
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