本年度は、尼崎市と神戸市のインナーシティ地区において、その再編の実態とプロセスを分析し、まちづくりの方向について考察を行った。 1 尼崎市のインナーシティは住工混在を特色とするが、そうした市街他を人口、産業の変化動向(衰退が大きい地区、衰退が小さい地区)から4つのパターンに分類された。国勢調査や事業所統計、住宅地図の経年変化などからそれぞれの特色を検討すると、市街化時期が古くて高齢者が多く、木造狭小住宅が卓越する住商工混在の下町ほど衰退が激しいことが明らかになった。インナーシティの性質と課題は地区によって異なっているが、まとまった土地があって改造型のまちづくりが可能な場所は多くない。下町再生を目指す修復型のまちづくりが求められており、住民がどのように地区の問題を発見・認識し、将来像を描いていくのか、それに行政他がいかに関わるかが課題である。また、産業振興や、低層・小規模な公的住宅の供給といった視点が欠かせず、既存制度の改革が必要である。 2 被災した神戸のインナーシティにおいては、再編の動きがより鮮明に見られる。代表地区では区画整理事業が行われており、その進行の中で住商工混在、低層高密の下町という地区の性質が変化しつつあることが土地利用分析から明らかになった。住宅地としての性質の強い街区で事業の進行が早く、より住宅地化するとともに中高層化が進む一方、商工業の多かった街区では事業が遅れ、経済活動の停滞を招いている。区画整理事業は、土地利用が単純な進行市街地に適している手法であり、用途の混在した高密度な既成市街地を取り扱うにあたって、問題を抱えていることを示している。その中で、インナーシティの新たな機能の模索という観点から、工場を集約換地して集客を意識した街並みを形成しようとする取り組みや、下町の再生を目指すいえなみ基準が注目される。
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