冷却殻成長が溶岩流に与える影響を調べる為に、冷却殻が成長しない流体(カオリン混濁液)と、表面に成長する流体(パラフィン)の流動実験を行った(流体を入れたシリンダーを観察面に配管し、逆側からエアーコンプレッサーを用いて流体を定流量で観察面へ流出させた)。尚、実験装置は今回新たに製作した。 カオリンを用いた実験で、粘性を調整すれば短い溶岩流の一般的性質をある程度うまく再現できる事を明らかにした。これは殻の効果も含めた全体系(バルク)の物性で溶岩流の巨視的な挙動が把握できる事を示しているが、実際の溶岩流の場合、バルク物性を推定できない欠点が残る。さらに実際の溶岩流は、例えば裂け目から新たな流れができて、それが幾つも重なり合って流れるが、こうした流れは冷却殻の無い条件では再現できない事を確かめた。 一方、パラフィンの流動実験を行ったところ、冷却殻が現実的に成長し、溶岩流の様々な形態的特徴をうまく再現する事ができた。またパラフィンの物性を調べ、レイノルズ数やペクレ数の意味で、熱輸送及び流動様式が溶岩流と類似している事を確かめた。さらに冷却によるレオロジー的成層構造が流動形態に大きく影響を与える事も確かめ、以下のような冷却殻の理論的な検討を行った。 まず、先頭が停止した後も背後からの流体の流入により、流体内部の圧力は増加する。このときの過剰圧が流れの厚さの微増に相当すると仮定すると、この過剰圧が引張強度を超えた時に殻が破れると考えられることから、破れて横に流出する時の厚さ変化(インフレーション)を予測することができる。この予測値は、(実際は計測が難しいが)実測値と調和的であった。その後の横方向への流動も、駆動力と粘性抵抗を考えることにより、理論的に最大到達距離を見積もる事が可能である事を明らかにした。これは流れつづける溶岩流の横方向への成長限界を示す事となり、防災面からも重要であると考えている。
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