LHDにおいて、ゼーマン効果を計測するため、高波長分解能をもつ可視分光器を設置した。最初に偏光計測のための予備実験として中性ヘリウム原子の発光線728.1nmを観測した。この発光線を伴う遷移は上準位の全角運動量量子数が0であり、原理的に偏光を生じないはずである。しかしながら、空間分布を計測する複数の視線のうち、いくつかにおいて明らかな偏光が認められた。観測の視線は磁場の向きに対してほぼ垂直で、その場合、ゼーマン分離したスペクトル線の中心に位置するπ成分が、その両側に対称にシフトするσ成分の2倍の強度を本来は持つことになるのであるが、観測結果ではπ成分がσ成分の3倍以上の強度を持つ場合があった。このことは視線と磁場の方向との角度の違いでは説明できない。この現象を合理的に説明するのは、真空容器壁による反射光が、観測光の中に混入していると考えることである。これが事実とすれば、偏光計測において大きな不確定性を持つことになるため、その後の計測においてはこれらの視線による観測データは用いないことにした。この結果を元に、電子の非等方的な衝突により偏光を生ずる可能性を持ついくつかのイオン種の発光線を観測した結果、主に放電終了近く、プラズマが崩壊する直前に偏光が見られるものがあった。現在のところ、その原因となる電子の非等方的な速度分布がプラズマ崩壊の直接的な原因になっているかどうかは明らかではないが、なんらかの因果関係を持っていると考えている。また、ゼーマン効果計測の付帯的な成果として、発光線の局所的な強度分布を非常に高い精度で求めることができた。この件については近く、論文として発表する予定である。
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