作物のホウ素欠乏症は砂質な土壌に多くみられる。そのため、肥料として施用されたホウ素が土壌から流出し、水系など環境への影響が懸念されている。必須微量元素であるホウ素の施肥は作物栽培上不可欠であるため、ホウ素の環境中での動態を明らかにすることは、環境保全型農業の実現に向けて重要な課題の一つと思われる。本研究では、ホウ素の土壌環境中でのダイナミックスを解明し、環境への影響を評価することを目的とし、高知県農耕地土壌のホウ素供給力及びホウ素の潜在的溶出特性について検討した。 高知県農耕地土壌30点(水田、畑、樹園地、施設)を試料として用いた。全試料の一般的理化学性の分析を行い、全ホウ素、熱水可溶性ホウ素含量を測定した。以上の分析結果を踏まえて、3点の土壌についてホウ素を水溶性、交換態、有機物、マンガン酸化物、鉄・アルミニウム酸化物及び残留画分に分けて測定した。さらに、この3点の土壌に5mg kg^<-1>のホウ素を添加し、上記各画分への分配を定量した。なお、全ホウ素含量の測定はクルクミン比色法(550nm)で、その他はICP発光分光法で行った。 供試土壌の全ホウ素含量は20.2〜77.1mg kg^<-1>で、ホウ素の天然賦存量(2〜100mg kg^<-1>)の範囲にあった。一般理化学性との関係を調べたところ、粘土や細砂画分と正の相関が認められ、母材との関連が示唆された。熱水可溶性ホウ素は施設土壌の一部を含めて大部分の土壌において、一般にホウ素欠乏症が発生する恐れがあるとされている基準値の0.2mg kg^<-1>付近かそれより低い値を示した。このように、全般的に土壌のホウ素供給力が低いことが明らかになった。このことは土壌中ホウ素の98.5%以上が難溶性画分に存在するという画分別測定の結果からもうかがえた。一方、土壌に添加したホウ素の約7割が水溶性と交換態画分に抽出された。これらの結果はホウ素含量の低い土壌でも施肥を行った場合、ホウ素が流出し環境に影響を与える可能性があることを示している。
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