研究概要 |
過去の深層水の変動を求めるため,北大西洋の海底堆積物から磁気異方性測定のための試料を採取した.堆積物をより少量の試料で高密度にサンプリングするため,今回初めて1cm立方の試料容器を使い,この試料容器で測定するためのアダプターをデザインした.7月に,ドイツ・ブレーメン大学の国際掘削計画の試料保管所に赴き,この試料容器を用いて北大西洋の3地点から過去約15万年をカバーする層準を約10cm間隔でサンプリングを行った.採取した1cm立方の試料を作成したアダプターを用いて,試料が乾燥しない間に磁化率異方性の測定を行った.従来は7ccの試料を用いていたが,この1ccの試料でも十分に測定できることを確かめた.異方性は単に堆積物の圧密に伴う磁気ファブリックの扁平化だけでなく,一部の層準でははっきりとした直線性のファブリックを示す.これらは,深層水による磁性鉱物の配列を示していると考えられる. 堆積物中の磁性鉱物の種類を調べるため,超伝導磁化率計にマグネットリセットと呼ばれる磁化率計内の残留磁場を下げる付属装置をインストールした.以前に他の装置で測定した試料を用いて,マグネットリセットが十分に残留磁場を下げ,残留磁化が測定可能であることを確かめた.採取した試料の低温での残留磁化の測定から,酸化されていないマグネタイトが主たる磁性鉱物であると同時に,ごく一部の層に部分的に酸化されたマグネタイトが存在することがわかった.一方,磁気ヒステリシスの測定から,酸化されていないマグネタイトと酸化されたマグネタイトがDayプロット上で異なるトレンドを形成することを初めて見いだした.さらに,磁気ヒステリシスが,氷期・間氷期サイクルだけでなくより短い周期に対しても対応していることが明らかとなった.低温磁気・磁気ヒステリシスデータをもとにした過去の北大西洋での深層水の変動について論文を作成中である.
|