天然水中に高濃度のアルミニウムが溶解すると、水中に棲む魚や藻類に毒性を示すことが懸念されている。酸性化した土壌や湖沼では溶存アルミニウム濃度の上昇が報告され、溶けだしたアルミニウムの挙動やその毒性が詳しく研究されている。最近、中性の湖沼においても溶存アルミニウム濃度が夏に上昇することがわかってきた。本研究では、琵琶湖における溶存アルミニウム濃度上昇のメカニズムの解明を目的として、実験室に持ち帰った湖水に無機イオン・有機キレート剤を加えて溶存アルミニウム濃度の変化を調べ、湖水で観測される変化と比較した。 前年度に、ルモガリオン法、HPLC法、ICP-MS法を組み合わせて溶存アルミニウムの形態別分析を行った結果、琵琶湖の表層で夏に増加する溶存アルミニウムは、アルミニウムのヒドロキソ錯体あるいは非常に結合の弱い錯体であることが示唆された。今年度は、琵琶湖湖水に無機アルカリを加えて、夏にpHが上昇する際に、懸濁態アルミニウムから溶存アルミニウムが溶出する反応を再現した。 さらに、琵琶湖湖水から抽出されたフミン物質(今井章雄氏より提供をうけた)を湖水中濃度の約8倍に濃縮して湖水に添加したところ、湖水に溶存するアルミニウムの約50%が有機錯体となった。琵琶湖でアルミニウムの有機錯体が検出されなかった理由は、湖水に溶存する有機物が錯生成能を持たないためではなく、錯生成能を持つ有機物の濃度が低すぎるためと考えられた。
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