研究目的と背景 本研究は線虫(Caenorhabditis elegans)の生殖特性を利用して、新しい環境ホルモン評価システムを確立することを目的としている。 環境ホルモンは胎生期のホルモンバランスを撹乱し、結果的に精子の減少を招くという可能性が実験動物で示されているが、人間でもそれが起こっているのかについては見解の相違がある。また、環境ホルモンの精子減少のメカニズムについてはほとんど何もわかっていない。一匹の線虫が生み出す産仔数はその精子数で決まり、それはほぼ一定で約300個である。環境ホルモンが線虫においても、精子減少を招くならば、その影響は産仔数を計数することで評価、解析ができる。本研究は、産仔数を計数することで環境ホルモンの影響を定量的に解析することを原理としている。 研究成果 環境庁から環境ホルモンとして指摘されているDES(ジエチルスチルベストロール)、ビスフェノールA、ノニルフェノール、オクチルフェノール、フタル酸ジブチル、フタル酸ジブチルベンゼン、スチレンモノマーを培地に添加し、線虫の産仔数を計数した。また、環境ホルモンを摂取させる方法として、エマルションに含有させて摂食させるという方法も検討した。その結果、上記7つの環境ホルモンだけでは産仔数の減少という効果は認められなかったが、重金属と混合させた時、極めて低い濃度において産仔数の減少が認められた。また、エマルション摂取方法においては、やはり低濃度で産仔数の減少が認められた。いずれの場合も産仔数の減少は70-80%であった。この産仔数の減少が、本当に精子数の減少に由来するのか、また、なぜ重金属が共存したときに産仔数が減少するのかを明らかにしていくのが今後の研究課題だと考察している。
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