研究概要 |
本年度は、放射線高感受性遺伝病ナイミーヘン染色体不安定症候群(NBS)患者由来の細胞においてATM-p53関連経路の異常の有無及びその機構を明らかにすることを目的として研究を行った。 その結果、NBS由来リンパ芽球様細胞ではγ線照射によりDNA損傷(二重鎖切断)を誘発すると、細胞周期及びアポトーシスの制御因子であるp53の誘導が正常細胞と比べて著しく抑制されおり、p53により制御される放射線誘導早期アポトーシスにも抵抗性であることを明らかにした。また、p53により発現制御されるWaf1, Mdm2のγ線照射後の発現にも異常が見られた。p53は、NBSがバリアントとして考えられていた毛細血管拡張性運動失調症(AT)原因遺伝子ATMによって15番目のセリン残基がリン酸化されるが、NBS細胞ではγ線照射後にSer15のリン酸化レベルが正常細胞と比べて低く抑制されていた。ATMは正常細胞ではγ線照射後早期に活性化されるが、NBS細胞ではγ線照射後のATMの活性化は抑制されていた。また、p53と同様にATMによってリン酸化、活性化されるc-AblもNBS細胞ではγ線照射後に活性化は見られなかった。今年度のこれらの結果から、NBS細胞ではDNA損傷発生後のATMの活性化に異常があり、それにともないp53が正常に誘導されず、その結果として早期アポトーシスが誘導されないという機構が考えられ、NBSの原因遺伝子NBS1が、DNA損傷誘発時のATMの活性化を制御している可能性も示唆される。
|