研究概要 |
平成12年度は、実験動物の導入と実験条件の決定を行った。年度初めに、C57BL/10およびC3Hバックグラウンドのp53(-/+)ノックアウトマウスを放射線医学総合研究所より当該研究室に導入、繁殖を開始し、正常なp53に特異的な配列、変異p53に特異的な配列、および共通配列内に設計した3種のプライマーを同時に用い、F1のp53タイピングのPCR条件を設定した。出生率は両系統間で差はなく、F1の遺伝子型は約半数がへテロであったが、変異型ホモの出生率が著しく低かった(10%未満)。生後10週令で1〜5GyのX線を照射し、照射後種々の時間間隔で脾臓を摘出,全有核細胞数をヘモサイトメーターで調べたあと,蛍光標識された種々の抗体で染色し,FACS解析により各々の脾に含まれるT,B細胞およびCD4^+CD8^-,CD4^-CD8^+細胞の生き残り数を算出した。照射後のT、B細胞生存数のカイネティクスを求め、照射線量は3Gy、細胞数測定は照射3日後が適当と判断された。また、抗体産生細胞数に関しては照射後24時間後にヒツジ赤血球で免疫し、4.5日に溶血プラーク法により細胞数の測定を行う。p53蛋白は癌抑制遺伝子であり,放射線照射後の細胞周期をG_1/S期で止め,放射線誘発DNA損傷に対して修復する時間的猶予を与える。また,p53蛋白はDNA損傷をスキャンし,損傷が検出された細胞にアポトーシスを誘発してその増殖を防ぐ。p53変異体は造血,リンパ系その他の系列の細胞のγ線照射に対する抵抗性を増加させ,ダブルノックアウトによりDNA/染色体の損傷がアポトーシスや細胞周期の停止を導く機能を消失することがわかっている。今回の実験系により2つの細胞死(アポトーシスおよび増殖死)を定量的に検出できるため、今後は放射線照射に対する免疫系細胞の急性応答に関して、2つの細胞死の相対的寄与に関してさらに解析を行う予定である。
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