ホルムアルデヒドは、気道過敏症など様々な過敏症を引き起こすと考えられている室内環境汚染物質である。近年、我々の日常生活は新建材を使用した環境下にあり、ホルムアルデヒドに曝される危険性が増えている。アレルギー性疾患を持つ患者が、ホルムアルデヒドをはじめとする化学物質に敏感であるという報告もあるが、両者の関係はまだ詳細には調べられていない。そこで本研究はマウスを用い、ダニ抗原誘発性気管支喘息において見られる病態発症に対する、ホルムアルデヒドの増強作用を評価することを目的とした。 H12年度は、比較的高濃度のホルムアルデヒドを5週間曝露し、呼吸器への影響を病理学的、生化学的に調べた。コナヒョウダニ抽出抗原1mgを、アラム1.5mgと共に1回腹腔投与。その後、ミスト状の0.5%ホルムアルデヒドを、15分間マウスに1週間毎、計5回吸入させた。最終ホルムアルデヒド曝露終了3時間後に気管内チューブを用いてダニ抗原10μgをチャレンジした。チャレンジから3日後にマウスを屠殺した。 ホルムアルデヒドをダニ抗原と共に曝露すると、気道上皮細胞の粘液細胞化が増強された。粘液細胞化の程度に呼応して、気道粘膜組織下に炎症細胞の遊走が見られた。また肺組織中のサイトカインを測定したところ、IL-5、RANTESの産生量が、ダニ抗原単独の場合の産生量より多かった。IL-2、IL-4は検出されなかった。一方、血中抗体価を測定した結果、IgG1抗体産生にホルムアルデヒドの影響は見られなかった。IgE抗体産生は、ダニ抗原が誘発する気管支喘息様病態では産生されず、ホルムアルデヒドの影響も見られなかった。以上の結果から、ホルムアルデヒドは、抗体産生には影響しないが、IL-5産生やRANTESの産生を促進し、それに伴い炎症細胞性の気道上皮炎症を強め、気管支喘息様病態をより増悪することが示唆された。 今後は、より日常に近い環境を想定して、長期間ホルムアルデヒドと抗原の曝露実験を行い、生体への影響についてより考察を深めていく。
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