ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は微生物が作る生体高分子の一つで、熱可塑性のみならず生分解性も有し、環境適合型材料(バイオポリエステル)として開発が期待されている。PHA生産菌Aeromonas caviaeが持つPHA生合成系酵素は物性改良に向けたPHAのエンジニアリングに有用である。本研究の目的は、モノマー供給に働く(R)-ヒドラターゼについて立体構造に基づいてその反応機構・基質認識機構を解明することにより、PHAエンジニアリングへ応用することにある。 これまでに本酵素の結晶化・構造解析に成功し、分解能1.7Åの結晶構造を明らかにし、また活性に関与するアミノ酸残基を同定していた。本酵素は活性部位近傍にループ領域が挿入されたホットドッグ構造をしており、洞窟状の基質結合領域を持っている。洞窟の奥に活性残基Asp-31、His-36が配置されている。本年度はSPring-8放射光を用いてさらに高分解能のデータを収集し、分解能1.5Åにおいてモデルの精密化を行った。得られたモデルのFree R-factorは22.3%まで収束した。また、本酵素と基質との複合体の構造を明らかにするために変異体酵素D31Aの設計、発現系の構築、精製、結晶化を行った。変異体酵素について得られた結晶は野生型酵素の結晶とほぼ同じ結晶学的パラメータを持っていた。しかし、放射光を用いたX線回折において得られた反射点の最高分解能は3.0Åであり、活性部位における基質分子の結合モードを解析するにはデータ不足であった。一方、基質分子を含む複合体結晶については、分解能3.2Åまでしか反射が得られなかった。複合体結晶においては結晶学的パラメータは野生型酵素結晶のものと異なっており、基質結合の際に酵素が構造変化を起こしていることを示唆してる。
|