研究概要 |
第二年度は,低湿地性植物の繁殖生態と遺伝的多様性の調査を行った.琵琶湖岸及び内湖において個体群動態と季節消長について調査した.その結果,1)優占種であるヨシと季節的に住み分けるタイプ(ノウルシ)2)ヨシと異所的に住み分けるタイプ(タコノアシ,ミゾコウジュなど),3)ヨシの下層群落として共存するタイプ(オニナルコスゲ,ヤナギトラノオ,ヌマゼリなど)に類型化することができた.これらの植物の繁殖パターンを検討した結果,タイプ1は大形種子性で安定した環境を好むものが多く,タイプ2は小型種子性で撹乱環境を好むものが多いこと,タイプ3は遺存的な植物が多い傾向が認められた. 琵琶湖の各地から採取したサンプルについて,酵素多型による遺伝的変異の解析を行った.琵琶湖岸以外では,淀川水系,由良川水系,櫛田川水系から採取を行った.遺伝的変異の実験結果については,現在データを解析中であるが,多様性の低い種と多様性が著しく高い種の両方の存在が明らかになった.保全に際しては,多様性の低い種では保全区域と開発区域の設定はそれほど問題にならないと考えられるが,多様性が著しく高い種ではそれぞれの地域個体群を保全する必要があり,ミチゲーションの計画設定を慎重に行わねばならないことが示唆された.遺伝的多様性の保全は,その植物が背負ってきた歴史も含めた保全として提案されるべきものであることを強く支持する結果が得られた.
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