研究概要 |
本研究では金属イオン配位部位と基質認識部位を有する配位子を設計し合成して,外部基質に対するリン酸基の転移を行うことを目的として検討を行った.基質認識部位としてm-キシリレンをスペーサーとしたビスメラミン誘導体を合成し,これに金属配位部位として2,2'-ビピリジル基を導入した.上記のビスメラミン誘導体は有機溶媒中でバルビツール酸誘導体と強く会合することをこれまでに報告している.別途水酸基を5位にメチレンスペーサーを介して導入したバルビツール酸を合成し,これを基質とし,また金属配位部位を有するビスメラミン誘導体をアポ酵素モデルとして活性化されたリン酸ジエステルであるビス(2,4-ジニトロフェニル)リン酸からのリン酸基転移反応についてZn(II)存在下で検討を行った.非常に興味深いことに,バルビツール酸誘導体非存在下においても反応は速やかに進行し,金属イオンのみでの条件と比較してその反応速度は最大10^4倍加速することを明らかとした.その後,詳細な検討を行ったところ,ビスメラミンに由来する4点の水素結合が,金属イオン上の配位水のリン酸エステルへの求核攻撃における遷移状態を強力に安定化することを見出した.これまでに金属イオンと水素結合との協同効果により,リン酸エステルを加水分解した報告例は1例のみであり,酵素の活性中心における水素結合の役割を考察する上で,大変興味深い反応系であると言える.現在,種々の類縁体を合成し,そのリン酸ジエステルの加水分解における効果について系統的に検討をしている.また,他の基質認識部位を導入した配位子についても検討を行っている.
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