研究概要 |
カテコール2,3-ジオキシゲナーゼはカテコール環のextradiol型開裂反応を触媒する酵素で,非ヘム2価鉄イオンを補因子とするホモテトラマーである.すでに,遺伝子のクローニング・塩基配列の決定のもと,大腸菌による高効率の酵素発現系を確立している.本酵素の2価鉄イオン近傍の電子状態を解明するために,本酵素とo-ニトロフェノール(ONP,拮抗阻害剤)の複合体のX線結晶解析を行うことは有効である.そこでまず,ONPを安定化剤に用い,発現させたホロ酵素の精製を試みた.その結果,比活性が高い黄緑色のホロ酵素を得ることができた.現在,そのONP複合体を用いたX線結晶解析を行っている.アセトンを安定化剤として精製したホロ酵素に対して,ONPをソーキングし,X線結晶解析を行う方法も試みている.次に,ONPの結合実験や反応動力学的パラメータの決定をおこなった.ONPは酵素サブユニットに対して1:1で結合し,その際協同性はないことが明らかとなり,解離定数は8.1μMであった.この値は動力学的に求めた阻害定数(9.3μM)と一致していた.ホロ酵素に比較してアポ酵素との結合が弱かったことから,活性部位の2価鉄イオンがリガンドの結合に関与して重要な役割を演じていることが示された.また,本酵素とONPとの複合体の光吸収スペクトルにおいて,ONPの吸収極大(410nm)の短波長シフトおよび長波長領域での吸収帯の出現がみられ,ONPアニオンが活性部位の2価鉄イオンと電荷移動錯体を形成し,ニトロ基がフェノールアニオンの分子平面からわずかに偏位すること,その結果πおよびn電子の共鳴構造が変化し,電子の局在性が高まることが強く示唆された. 以上より,ONPは拮抗阻害剤であると同時に,無色である本酵素の2価鉄イオン近傍の電子状態を解明する有力な活性部位探索試薬であることが分かった.
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