本研究の目的はゲンジボタルルシフェラーゼとATPおよびデヒドロルシフェリンとの複合体のX線結晶構造解析を行い、発光反応中間体の構造を決定するということである。デヒドロルシフェリンは本来の基質であるルシフェリンのアナログであり、酵素中でATPと反応し、デヒドロルシフェリルAMP中間体を形成すると考えられている。そこで、まず酵素とこれらの基質とを反応させた複合体の結晶化条件の検討を行った。沈殿剤としてPEG4000を用いた時に結晶が得られた。得られた結晶のX線回折強度データをSPring-8のビームラインBL45PXにおいて収集したところ、1.48Å分解能の回折強度データが得られた。すでに得られているATP複合体の立体構造から電子密度図を計算したところ、デヒドロルシフェリルAMPの電子密度は観測されなかったが、AMPとデヒドロルシフェリンの電子密度が観測され、はじめてルシフェリンの結合位置を明らかにすることができた。しかしデヒドロルシフェリンは化学反応が起こるような結合様式は取っておらず、非選択的な結合様式をしていた。ルシフェリンの結合領域はルシフェリンに対して非常に大きく、ルシフェリンがまださらに3Å程度移動できるような空間が存在していた。またルシフェラーゼの残基とデヒドロルシフェリンが水素結合しているところはほとんど観測されなかった。 また発光色を決定している要因を探るために、橙色に光るSer286Asn変異体についても、同様の複合体の結晶化条件の検討を行った。これについても同様の結晶化条件により結晶は得られたものの、2.5Å分解能程度の反射しか得られず、野生型の酵素の結晶に比べて結晶性が悪いことが判明した。そして得られた回折強度データから構造決定を行ったが、AMPの電子密度は見られたものの、デヒドロルシフェリンの電子密度は観測されなかった。
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