紅色酵母Sporoboromyces salmonicolorの産出するNADPH依存型アルデヒド還元酵素は、4-クロロ-3-オキソブタン酸エステルを還元し、薬剤L-カルニチンの原料となる(R)4-クロロ-3-ヒドロキシブタン酸エステルを選択的に生産する。本研究は、このアルデヒド還元酵素の立体構造をX線構造解析により明らかにし、反応の立体選択性がどのように制御されているかを明らかにすることを目的としている。 本酵素のアポ型およびホロ型の結晶は、高分解能の反射を呈する良質のものが得られていたが、物質構造科学研究所のシンクロトロン放射光を使用して良質な高分解能の反射強度データを得た。現在立体構造の精密化途中であり、アポ型酵素は1.7A分解能、ホロ型酵素は1.8分解能での構造解析を進めている。 本酵素の全体構造は、今までに立体構造が明らかになっている2種類のアルデヒド還元酵素と酷似している。しかし、C末端付近には、本酵素群としては初めてジスルフィド結合が見つかり、またそのフォールディングも全く新規なものである。このC末端部分は、基質結合部位と非常に近く、基質特異性が立体構造と関連している可能性が考えられる。また、NADPH結合部位周辺の立体構造がアポ型とホロ型で大きく変化していることが見つかった。これはアルデヒド還元酵素としては初めて明らかになった構造変化である。
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