研究概要 |
本研究は,赤色酵母Sporobolomyces salmonicolor由来のアルデヒド還元酵素の反応機構を構造生物学的に研究することを目的としている,この酵素はNADPH依存型アルド・ケト還元酵素スーパーファミリーに属する分子量約37,000Daのタンパク質で,単量体で機能する.本研究では,S. salmonicolor由来アルデヒド還元酵素のアポ型酵素とNADPHとの複合体酵素(ホロ型酵素)の立体構造を,それぞれ1.8A,1.9Aの高分解能で明らかにした.アポ型酵素の完全な立体構造が明らかになったのは本研究が初めてである. 本酵素の全体構造は,構造既知のアルド・ケトネーパーファミリーの酵素とよく似たα/β(TIM)バレル構造をしている.バレル上部には3つの大きなループが存在するが,一つのループは大きく構造が違っており,ループ内にジスルフィド結合が見つかった.このファミリー内でジスルフィド結合を持った酵素は,本酵素以外にはない. アポ型酵素とホロ型酵素の構造を比較したところ,NADPH結合部位で3カ所において大きな違いが見られた.NADPH結合クレフト周辺に存在するTrp20,Gln21の側鎖は,ホロ型酵素ではアポ型から大きな構造変化を起こしてクレフトを覆い,NADPHに直接相互作用していた.それに伴い,クレフトの対岸ではAsn213の側鎖がNADPHのピロリン酸ブリッジと相互作用するように構造変化を起こしていた.また,Lys256,Arg262の側鎖はアポ型酵素ではクレフト内に存在するが,ホロ型酵素ではNADPHのアデニン-2'-リン酸と相互作用するように構造変化を起こしていた.これらのことから,アポ型酵素へ捕酵素NADPHが結合する際のアミノ酸残基の一連の構造変化を,順を追って示すことが出来ると考えている.
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