ミトコンドリアへの輸送のための標的化シグナルは、ミトコンドリア内部でミトコンドリアプロセシングペプチダーゼ(MPP)によって切断除去され、タンパク質は前駆体から成熟体へと変換される。今年度、立体構造を基盤とし、以下の項目を解析し、この分子認識メカニズムの解明を試みた。 (1)MPPの立体構造は? (2)MPPのシグナル認識に重要な構造要素は? (3)結合状態でのシグナル配列やMPPの構造は? (1)、(2)に関して、分子モデリング法を用いた構造予測によってMPPの立体構造を構築した。結果分子内部に空洞が観察され活性部位はこの空洞内部に存在していた。またグリシン残基に富む領域がループ構造をとって活性に張りだしていたため、この領域の変異を行ったところ、標的化シグナルペプチド結合と切断活性が大きく低下した。この領域の柔軟な構造が標的化シグナルの認識と切断物の解離に重要な役割をしていると考えられる(研究発表済)。また、MPP分子内空洞部の残基に対するアラニンスキャンニング変異法を用いて、標的化シグナルの認識部位と考えられる酸性アミノ酸を同定した。さらに、X-線結晶構造解析によって酵母MPPの立体構造を約2.5Åの分解能で決定した。この構造は分子モデリング法によって構築されたものと酷似しており、静電ポテンシャル計算によって分子内空洞は負電荷を帯びていると考えられ、塩基性の標的化シグナルを静電的な相互作用によって分子内空へと誘引している可能性が高い。事実、詳細な反応速度や生化学的解析の結果から、静電相互作用による認識のメカニズムを提案した(研究発表済)。 (3)に関して、蛍光エネルギー移動法によってMPP結合状態での標的化シグナルペプチドのおおまかな立体構造を解析したところ、ペプチドのアミノ-カルボキシ末端が立体的に比較的近い関係にあると予想された(研究発表済)。 現在、シグナルペプチド結合状態でのX-線結晶構造解析を行っている。
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