細胞内蛋白質の多くは短寿命であり、その機能は合成と分解の量的調節の上に成立している。近年、細胞機能の制御において、転写・翻訳による蛋白質の生合成調節、あるいはリン酸化・脱リン酸化による翻訳後調節とならんで、蛋白質の代謝的安定性の変化が決定的に重要であるとの認識が定着しつつあり、その制御にはプロテアソーム依存性の蛋白質分解系が大きな役割を演じている。プロテアソームは主としてユビキチン化された標的蛋白質を選択的に認識するATP依存性プロテアーゼであり、総数40種以上のサブユニットから構成された巨大な多成分複合体である。これまでの研究からプロテアソームの一次構造解析がほぼ完了しその複雑な分子構成の全貌が明らかになりつつあるが、この巨大分子複合体の作用機構、特に基質識別の分子機構についてはまだ十分に解明されていない。我々は科学研究費補助金受領中、マウス初期胚で組織特異的な発現パターンを示す初めてのプロテアソーム遺伝子として3種類のユビキチンレセプター(Rpn10c〜e)サブユニットcDNAを単離し、プロテアソームによる基質識別機構には複数の経路が存在することを突きとめた。興味深いことに、Rpn10e蛋白質はマウス胎児の脳特異的に検出され、胚体幹部および成体脳には検出されない。このことは胚脳に特異的なユビキチン依存的蛋白質分解経路が存在していることを示唆している。Rpn10eを細胞内に過剰発現させると、核の倍数化を伴う細胞分裂停止などを誘導し、構成的遺伝子であるRpn10aを発現させた場合とは全く異なる効果を現すことが明らかとなった。これらの結果はユビキチンレセプターサブユニットRpn10aとRpn10eとは異なる機能を有していることを示している。最近、ユビキチン経路による時間、空間特異的な蛋白質分解が細胞増殖や体軸形成、神経分化などの発生現象に密接に関与していることが報告されつつある。我々は、これらのユビキチンレセプターの機能をin vitro結合アッセイやKOマウスの作成などにより解析を進めており、今後プロテアソームによる基質識別のメカニズムを明確にさせるべく研究を展開させたいと考えている。
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