血清マンナン結合タンパク質(MBP)はマンノース、N-アセチルグルコサミンに特異的な動物レクチンであり、異物表面の糖鎖と結合して補体活性化能を示すなど、異物認識分子として先天性免疫において重要な役割を果たす。研究代表者らはMBPが担癌マウスにおいて補体非依存的とみられる抗腫瘍作用を示すことを見いだし、この機構として補体非依存的細胞性細胞障害作用(MDCC)を提唱した。本研究課題においてはまず、MDCCがin vitroにおいて再現されることを見いだした。すなわち、ヒト結腸癌由来細胞株SW1116を標的細胞に、単球系細胞THP-1をエフェクター細胞として用い細胞障害試験を行ったところ、顕著なMBP依存的細胞障害が認められた。この実験でエフェクター細胞が産生する細胞障害因子は可溶性かつ易熱性を有することが明らかとなり、何らかのタンパク質の関与が示唆された。なお、細胞障害を誘導するタンパク質としてよく知られる腫瘍壊死因子(TNF-α)ついては本機構には関与しないことがわかった。また、合成糖鎖リガンドを用いてMBPによる補体非依存的な白血球活性化作用を調べ、固定化リガンドに結合したMBPにより好中球の凝集および活性酸素の放出が誘導されることを見いだした。MBPのコラーゲン用領域フラグメントを固相化した場合も同様の活性化が認められたことから、MBPによる好中球刺激作用にはMBPのコラーゲン様領域が重要であることが示唆された。また、この活性化機構には血小板活性化因子(PAF)が関与することがアンタゴニストを用いた実験より明らかとなった。さらに、本研究においては、担癌マウスにMBPを投与した後の腫瘍組織内にマクロファージおよび好中球が浸潤することを見いだしており、MDCCにはミエロイド系細胞が重要な役割を果たすことが強く示唆された。
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