従来、哺乳類の構成アミノ酸は、すべてL型だけであると考えられていたが、加齢と共に遊離のD型アスパラギン酸(D-Asp)やD-Asp含有蛋白質が、体内で生じることが明らかになり、D-Asp含有蛋白質は、種々の疾病との関連が指摘されている。特にアルツハイマー病では、D-Asp残基を含むβアミロイド蛋白質が、実際の患者脳で発見され、その因果関係が注目されている。私は、こうした有害なD-Asp含有蛋白質に対する排除機構として、D-Asp含有蛋白質に特異的な分解酵素があるのではないか、との仮説をたて、D-Asp含有蛋白質に特異的な分解酵素の探索を行った。その結果、特異的なエンド型分解酵素の精製に成功した。従って、この酵素をD-aspartyl endopeptidase (DAEP)と名付け、DAEPの性質について調査するための2ヵ年の研究計画を立て、昨年度は、各臓器におけるDAEPの分布やその酵素的な性質についての調査を行った。さらに、その性質について理解を深めるために、DAEP活性を抑制する特異的な阻害剤を開発した(Bz-Arg-His-D-Asp-CH_2CI、特許出願中)。 今年度はこの阻害剤が不可逆的にDAEPの活性中心に結合する性質を利用して、DAEP活性中心サブユニットを同定することを試みた。まず、ビオチン化した阻害剤(Biotinyl-Arg-His-D-Asp-CH_2CI、Biotinyl-Gly-Gly-D-Asp-CH_2Cl)を合成し、これと精製DAEPを反応させ、その後、アビジン化ペルオキシダーゼによってビオチン化阻害剤と結合したDAEP活性中心サブユニットの検出を行った。その結果、30k、50k、75kDaの分子量を持つ蛋白質が検出された。これらの分子のなかにDAEPの活性中心を構成するサブユニットであると考えられ、現在、その一次構造を解析している。
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