出芽酵母ミトコンドリアの配列特異的エンドヌクレアーゼEndo. SceIは50Kと75Kサブユニットのヘテロ量体として精製され、のちに前者が触媒サブユニット、後者はミトコンドリア局在型の70-kDa熱ショツク蛋白質(mtHSP70)であることが判明した。50Kは単独で配列特異性の厳密な26塩基認識のDNA切断活性を示すが、mtHSP70との複合体形成で特異性が緩み様々なDNAを切断できるように変化する。50Kの様に分子シャペロンHSP70が安定に結合したまま酵素活性を変換する例は他に報告がなく、この活性変換機構を調べ以下の結果を得た。(1)50Kと同じアミノ酸配列モチーフを持つホーミングエンドヌクレアーゼ単量体は、100種類以上全てで単一DNA配列に特異的な活性を持つ。50Kのみに独特なN末端200アミノ酸を人為的に欠損させると、単一配列特異的ヌクレアーゼ活性は残ったが、mtHSP70との相互作用、及び配列特異性の変換ができなかった。これは、元来、単量体酵素だった50KがN末端に付加的領域を得て、mtHSP70の結合と配列特異性の緩みを獲得した可能性を示している。(2)別の酵母株由来のEndo. SuvIはEndo. SceIの相同酵素で、50Kのアミノ酸配列上2箇所で置換が存在する。相同50K単量体間の活性に差はなく、2アミノ酸の違いはサイレントな置換であった。mtHSP70との複合体形成は両50Kの配列特異性を緩めたが、一部のDNA配列はEndo. SceIにのみ特異的で、Endo. SuvIでは切断できなかった。この結果は本来、違いをもたらさないアミノ酸点変異をmtHSP70が表現型の差として表面化させる事を示している。分子シャペロンmtHSP70は50Kの基質特異性を変換する能力に加え、点変異の表現型変化を生み、酵素の進化を促進する働きがあることを示唆している。
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