研究概要 |
偏性嫌気性細菌である硫酸還元菌Desulfovibrio vulgaris Miyazaki F株由来のチトクロムc_3は1分子中に4つのc型ヘムを持つ分子量約14,000の電子伝達タンパク質である。標準酸化還元電位が約-300mVと通常のモノへムチトクロムcと比べて著しく低いという特徴を持つため、そのメカニズムに大変興味がもたれている。しかしながら、これまでチトクロムc_3のような多ヘム型のc-型チトクロムの有効な大量発現系は世界的にも全く存在していなかった。そこで本研究では、まず、通性好気性細菌であるShewanella oneidensisを宿主とした全く新しいテトラヘムチトクロムc_3の大量発現系を構築した。次ぎにこの発現系を利用してアミノ酸置換変異体を作製し、これまでX-線や、NMR等の分光学的な手法により蓄積されたチトクロムc_3の構造情報をベースとした酸化還元電位と電子移動機構のメカニズムに迫った。具体的には、1)チトクロムc_3のヘテロな宿主による世界に例を見ない新しい大量発現系を構築した。2)大量発現系を用いてチトクロムc_3の8つのヘム軸配位子であるヒスチジン残基や、ヘム近傍の芳香族アミノ酸をそれぞれ置き換えたチトクロムc_3の作製を行った。3)変異チトクロムc_3についての巨視的酸化還元電位を電気化学的手法を用いて決定した。4)変異チトクロムc_3についての微視的酸化還元電位をNMRを用いて決定した。5)変異チトクロムc_3を結晶化し、現在そのX-線結晶構造解析を行っている。6)5-デアザリボフラビンセミキノンラジカルやヒドロゲナーゼから変異チトクロムc_3への電子移動速度を測定した。7)チトクロムc_3のヘムまわりのアミノ酸残基の違いが、チトクロムc_3の特異な性質にどのように影響しているかを、上で得られたいくつかの構造情報と、酸化還元電位および電子移動速度の知見を総合して考察した。
|