モータータンパク質分子であるATP合成酵素F1の動作メカニズムを解明するために、ATP加水分解反応と回転運動を1分子レベルで同時観察する事を試みた。 現在所有するエバネッセント場照明蛍光顕微鏡では、蛍光色素1分子の水溶液中、実時間観察が可能である。蛍光性ATPアナログ、Cy3-ATPを使うことにより、カバーガラス表面上に固定した1分子のF1によるATP加水分解反応を観察した。ガラス表面上に輝点として観察されるCy3-ATPの密度はガラス表面に固定したF1の濃度に比例した。また、Cy3-ATPの結合解離の時定数を調べてみると、溶液中の計測から報告されている時定数と良い一致を示した。以上の二つの点は、ATP合成酵素F1による1分子化学反応が可視化されたことを示している。 遺伝子工学の手法で作成した大腸菌のF1を使って、F1の回転運動観察実験を行った。F1中央のγサブユニットにストレプトアビジンを介して蛍光標識したアクチンフィラメントを結合させた。溶液中にATPを入れることにより、アクチンフィラメントの回転を観察した。 ATP加水分解に伴うエネルギーを考える上では、分解産物であるADPとリン酸の濃度が大きく影響する。F1のATP加水分解反応を計測する際、溶液中のADP及びリン酸の濃度を変えてATP加水分解反応速度を計測し、ADP及びリン酸による阻害の効果について情報を得た。 次年度以降は、ATP加水分解反応観察系、回転運動観察系で得られる同時観察データと、本年度に得られた生化学的なデータを組み合わせ、化学反応と力学反応の同時観察に迫り、F1の物理化学的な特性に迫りたい。
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