研究概要 |
本研究では具体的な膜タンパク質の立体構造決定をすることを目標としているのではなく、近年水溶性タンパク質で利用されつつある異方的構造情報を、膜タンパク質に適用するための方法論を考案しようとしている。従って立体構造決定までも含めた、水溶性タンパク質を用いた方法論の検討と、脂質に結合した膜タンパク質から異方的構造情報を得る系の検討の2項目を中心に研究を展開している。各項目について以下に概説する。 1)磁化率の高いDNA・タンパク質複合体を用いた立体構造決定 21塩基対のDNAを結合させたセントロメアタンパク質/DNA複合体を用いて、異方的構造情報を積極的に抽出した立体構造決定法を考案した。特にこのタンパク質は立体構造的に独立した二つのドメインを有するため、NOEやスピン結合定数といった短距離情報のみではドメイン配向の情報を得ることができなかった。そこで高度に磁場配向させた繊維状ファージ中で複合体を弱く配向させることによって、残余双極子カップリングから磁場に対する配向制限情報を抽出することができた。しかしドメイン配向の決定のためには一軸のみの配向情報では不十分であることがわかった。そこでT1/T2データから得られる緩和異方性解析を行い、水溶液中における拡散テンソルに対する配向情報を新たに抽出することができた。2種の配向制限情報を効果的に組み入れることによって、2つのドメイン配向を決定することができた。現在2報の論文を作成中である。これらの異方的構造情報を用いた立体構造計算法は、膜タンパク質にも導入できると期待している。 2)膜結合性ペプチドのバイセルへの埋め込み実験 DMPCとDHPCを適度なモル比で混合させることにより、バイセルと呼ばれる分子サイズの小さな脂質二重膜を形成できることが知られている。膜貫通型タンパク質の物性は個々のタンパク質によって大きく異なるため、バイセルへの埋め込みを行う実験自体が年単位の努力を要する。ここでは、溶解性が高く扱いやすいモデル系としてメリチンを選び、バイセルへの埋め込み実験を行った。まず、比較的安価なGlyサイトに着目し、3、13残基目への部位特異的ラベルメリチンを化学合成した。水溶液中のメリチンはほぼランダムコイルシフト値にシグナルが観測されるが、DMPC/DHPC脂質系ではバイセルの相転移点である293K以上でヘリックス構造由来の化学シフトに変化することがHSQC,TROSY法により確認できた。
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