本研究で作製した酵母チロシルtRNA合成酵素(TyrRS)の43位のチロシン残基をグリシンに置換した変異体(Y43G)は野生型のTyrRSが全く認識しない3-ヨードチロシンをtRNAに受容させることができる。そこで、Y43Gがその他のチロシンアナログを認識できるかどうかを、酸性PAGE法によって網羅的に解析した。その結果、多くの3-置換チロシンアナログを認識できることが示された。特筆すべきは光化学反応性の3-アジドチロシンをtRNAに受容できることである。これを生体外タンパク質系でタンパク質に部位特異的に導入させることができれば、他タンパク質との相互作用をたやすく解析することが可能になると考えられる。 次に種々のチロシンアナログの中でY43Gのもっともよい基質であるDOPAをタンパク質に導入させることを試みた。もし、Y43GがサプレッサーtRNAに対して触媒的に働けば、部位特異的に、しかも効率よくDOPAをタンパク質に導入させることができるはずである。大腸菌の生体外タンパク質合成系に^14Cで標識されたDOPAを加え、モデルタンパク質であるGreen Fluorescent Protein(GFP)を合成させたところ、放射能の取り込みは見られなかった。しかし、GFPのアンバー変異遺伝子、アンバーサプレッサーtRNA、Y43Gと[^14C]DOPAを加えた場合には、GFPに放射能が取り込まれたことが観察された。このことは、GFP遺伝子のアンバー部位に特異的に[^14C]DOPAが取り込まれたことを示している。 本研究では、アミノアシルtRNA合成酵素を改変し非天然アミノ酸をtRNAに受容させ、タンパク質に部位特異的に導入することを一つの目標にしており、上記の結果から、それを達成できたと考えられる。
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