出芽酵母の細胞極性形成におけるアクチン再構成の分子機構を解明するために、本研究ではタイプIミオシンに注目して解析を始めた。解析に当たり、まず、タイプIミオシンの温度感受性変異株を作製した。得られた6種の温度感受性変異株の中に、変異タンパク質は安定であるが細胞内局在が異常となるもの(myo5-360)を見出した。 次に、この温度感受性変異株を用いてタイプIミオシンと遺伝学的相互作用する因子の同定を試みた。myo5-360の35℃での増殖不能を、多コピーで抑圧する遺伝子を多数単離した。その中には、出芽酵母のWASPホモログであり、出芽酵母においてタイプIミオシンと共にアクチンの重合化に重要な働きをしていることが既に報告されているLAS17遺伝子も含まれた。また、これまでにほとんど機能を明らかとされていない遺伝子CDC50が単離されたので、この遺伝子の機能についてさらに解析を行った。データベース検索により、CDC50遺伝子産物(Cdc50p)は相同性のあるタンパク質が酵母からヒトまで真核生物に広く存在することがわかり、基本的な生命活動に重要な役割をしている可能性が示唆された。Cdc50pはそのアミノ酸配列から膜貫通領域を有し、細胞内で膜に局在していることが示唆された。そこで細胞分画実験を行い、Cdc50pはTritonXl00により可溶化される膜画分に存在することを明らかにした。CDC50の細胞内での役割を明らかにするために、CDC50遺伝子破壊株(cdc50Δ)を作製した。cdc50Δは、高温(37℃)での増殖は野生型と差異が認められなかったが、低温(18℃)で致死となった。cdc50Δは低温にシフトするとアクチンの細胞内局在が異常になり、野生型よりも丸い小さな芽を出した状態で増殖を停止していた。このことからCdc50pは細胞極性形成において重要な働きをしていることが示された。
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