これまで癌抑制遺伝子産物Rb蛋白質の研究は、低リン酸化型の細胞増殖抑制能にのみ焦点が当てられて来たが、私は最近、高リン酸化型の細胞増殖への積極的機能分担の可能性を指摘して来た。今回、高リン酸化型の機能を探ることを目的とし、GFP融合法を用いてRb蛋白質の細胞内局在の検討を行った。すなわち、リン酸化によるRb蛋白質の構造変換を模倣していると考えられる欠失型変異体を作成し、これをGFPと融合させて生細胞で観察することで高リン酸化型の挙動を推測しようというものである。まず、高リン酸化型Rb蛋白質に対する抗体を用いた間接蛍光染色により、S期後期に高リン酸化型Rb蛋白質が核小体へ局在することがわかった。Rb蛋白質は高リン酸化されることで二つの機能ドメインであるポケットA領域とポケットB領域間の分子内相互作用が解除されることが報告されているが、それぞれ一方を欠失させた変異体を用いた実験の結果、ポケットB領域の欠失によってGFP融合Rb蛋白質が核小体へ局在することが明らかとなった。このことは、リン酸化に伴う分子内相互作用の解除によりポケットA領域上の新たなシグナルが分子表面に露出され、その結果核小体への局在が起こることを示唆している。一方において、高リン酸化型Rb蛋白質とポケットB領域を欠失した変異体がそれぞれ核小体蛋白質ヌクレオフォスミン/B23と強固に結合することから、核小体局在とヌクレオフォスミン/B23結合が関連して起こっている可能性も示唆された。しかし、この高リン酸化型Rb蛋白質の核小体局在の生物学的意義は未だに明らかではない。今後、S期後期におけるRb蛋白質の挙動と細胞周期との関係、ならびにその核小体局在の意味を追究していく予定である。
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