原始的な真核細胞の一つであり、脊椎動物に感染症を引き起こす赤痢アメーバ(Entamoeba hystolytica)の増殖制御の機構について解析を行った。赤痢アメーバでは細胞周期を制御する様々な分子がほとんど単離されていないため、申請計画に従い他の真核生物種で同定されている細胞周期を制御する分子群(wee1、CAK、MAPKなど)のホモログのクローニングを行った。その結果、タイターの高い赤痢アメーバcDNAライブラリーの構築、及び、MAPK、rskホモログの部分配列の同定に成功した。 cDNAライブラリーに関しては、まず安全性の高い栄養型赤痢アメーバ株を恒温機内において大量培養して材料とし、AGPC法を用いて抽出したtotal RNAからOligo dTセルロースカラムを用いてmRNAのみを精製した後、mRNAを基質として逆転写酵素によりcDNAを合成した。合成したcDNAをプラスミドベクターに組み込み、cDNAライブラリーを構築した。タイターを測定したところ、高タイターのcDNAライブラリーであることが分かり、今後の解析に有効である。 さらにクローニングに使用するプローブを作成するため、wee1、CAK、MAPKなどの細胞周期制御分子のアミノ酸配列で種間でよく保存されている部位に対応するdegenerate-primerを用いるなどの方法を用い、アメーバcDNAからRT-PCR法による増幅を行った。その結果、ヒトのMAPKであるERKと高い相同性を持つcDNA断片を得ることができた。さらに細胞周期に関与するキナーゼの1種であるrskのcDNA断片も得られた。これらのcDNA部分配列をプローブとして用いて、cDNAライブラリーから各分子の全長配列を持つクローンを単離中である。 また、赤痢アメーバにおけるMAPK活性制御の機構を調べるため、抗リン酸化チロシン抗体を用いてウエスタンブロットによる解析を行った。その結果、脊椎動物と異なり、栄養型赤痢アメーバではリン酸化されたチロシンは細胞内には非常に少なかった。この結果は赤痢アメーバにおける増殖制御メカニズムが脊椎動物と大きく異なっている可能性を示唆している。
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